「とりあえずLLMで」のせいで、プロジェクトがよくわからない沼に沈んだ経験、ありませんか?
- コスト見積もりはトークン単価と雰囲気でしか出せない
- ちょっと仕様を変えるだけでプロンプト沼&ハルシネーションと格闘
- ログを追っても「なぜそう答えたか」が最後までわからない
正直、ここ1〜2年で「LLM疲れ」を起こしているエンジニアはかなり多いはずです。
そんな空気の中で、「メモリ1GBで動く・非LLMのAIを自作した」という記事が出てきたのは、かなり象徴的だと感じました。
一言で言うとこれは、
LLM 全盛時代に出てきた、「AI界の Go 製モノリス」
だと思っています。
みんなが Kubernetes とマイクロサービスで空中戦をしているときに、
「いや、単一バイナリで十分なケース、まだあるよね?」と、静かにナイフを研いでいる感じです。
これはただの「昔のやり方」ではない

この記事の面白さは、「新しいモデルを作りました!」ではなく、
“制約”を出発点に、あえて非LLMで「AIっぽいもの」を作り切った
というところにあります。
- 非LLM宣言
- Transformer も巨大パラメータも使わない
- ルールベース+小さなML+テンプレート生成
-
それでも、ユーザーから見ると「それっぽく賢い」動きに見えるように設計
-
メモリ 1GB というハード制約
- GPUもVRAMも前提にしない
- 1GB RAM の VPS やローカルで完結する構成
-
「とりあえずクラウドでデプロイ」から完全に距離を取っている
-
LLM疲れへのアンチテーゼ
- 「LLM + ベクタDB + LangChain」がデフォルト化した世界で
- そもそもタスクを分解し、「小さな決定可能なロジック」に戻している
ここで重要なのは、
“あえて”古典的手法を選んでいる
という点です。
手元にはGemma 3 や Llama、DeepSeekなど軽量LLMの選択肢があるのに、あえて外している。
これは「技術的にできない」からではなく、「思想として選ばない」という態度表明なんですよね。
正直、この態度そのものに価値がある、と私は思っています。
一言でいうと「LangChainを使うまでもない世界」の実例
このアーキテクチャを、あえてLangChain的なLLMスタックと比較してみます。
LangChain & LLM スタック
- 依存:
- LLM API(OpenAI, Anthropic, etc.)
- ベクタDB(Pinecone, Chroma, Weaviate…)
- そこそこ強いインフラ or GPU
- 強み:
- 汎用性抜群、「とりあえず投げればなんとかなる」
- RAGやツール呼び出し、エージェントなど、表現力が高い
- 弱み:
- コスト構造が読みにくい(トークン課金 & GPU)
- 応答が非決定的で、再現性・デバッグ性が低い
非LLM + 1GB アーキテクチャ
- 依存:
- ローカルで完結するルール & 軽量ML
- 小さなRDB or ファイルストレージ
- 1GB RAM の安VPSでも動く
- 強み:
- コストが明確・激安
- 応答ロジックをトレース可能(if / else で追える)
- オフラインや閉域でそのまま運用しやすい
- 弱み:
- 汎用性は低く、タスクをかなり絞る必要がある
- 日本語を含む自然言語理解の「グレーゾーン」は、自前でつぶす必要がある
つまりこれは、
「LangChainをわざわざ持ち出すほどでもないタスク」に
ちゃんとした対案を出した
という点が重要です。
最近、「ローカルでGemma 3 を動かす」とか「Ollama + Open WebUIでRAG環境を作る」といった記事も増えていますよね。
あれはあれで素晴らしいし、LLMの民主化という意味では大歓迎です。
ただ、そこですら「メモリ8GB」「GPU 8GB VRAM」「量子化モデルでも数GB」という世界観が前提になっている。
この1GB非LLMアプローチは、そのさらに外側にいて、
「そもそもLLM、本当にいる?」
と問い直してくるわけです。ここが刺さる人にはかなり刺さるはずです。🤔
一番の価値は「アーキテクチャの考え方」を見せたこと

技術的な中身だけを見ると、
- ルールベース
- 単機能な ML モデル(分類器など)
- 状態機械っぽい応答制御
- テンプレートベースのレスポンス生成
と、やっていることは正直すごく地味です。
でも、この地味さを「2020年代のWebアプリの形」に落とし込んだところが新しい。
ただのスクリプトではなく、
- Webフロントエンド
- APIサーバ
- 軽量な推論ロジック
- 小さなDB
で、「見た目は今風のAIチャット/アシスタント」に仕立てている。
ここに、古典的AI手法の現代リライトとしての価値があります。
歴史的に見ると、
- 1990–2010年代:ルールベースやSVM、決定木でがんばる
- 2018–2023年:Transformer & LLMで「なんでもLLM」が正義
- 2024–:LLMを使いつつも、「制約付き・軽量AI」への揺り戻し
という流れの中で、この事例ははっきりと「ポストLLMの入り口」に位置づけられると感じます。
誰がこれを怖がるべきか?
このアプローチ自体は、ChatGPT級のSaaSを殺すような話では全くありません。
が、地味に刺さる領域はそれなりにあります。
過剰にLLMを使っているSaaS
- FAQボット
- 内部ツールのちょっとした補助入力
- 固定されたワークフローのガイド
こういう「ルールとちょっとした分類で十分なもの」に、
LLM + LangChain + ベクタDB + 高スペックインフラを盛り盛りに乗せているプロダクトは、
正直、「それ、非LLM+1GBでよくない?」と突っ込まれかねません。
「ローカルAI=LLMしかない」と思っている層
Gemma 3 や Llama、DeepSeek などをローカルで回す記事が増えていますが、
そこに登場するスペックはだいたいこんな感じです:
- メモリ 16〜32GB
- GPU VRAM 8〜24GB
- モデルサイズ数GB〜十数GB
一方で、1GB非LLMは、
- 1GB RAM の Raspberry Pi でも組み込みできそうなサイズ感
- VPS月数百円でも動かせる
という世界観です。
「ローカルAI=LLM」しか頭にないと、この選択肢に気づけないんですよね。
ぶっちゃけ:落とし穴もかなり多い

ここまで褒め気味に書いてきましたが、懸念点もかなりはっきりしています。
汎用性がほぼない
LLMの強みである、
- 多少雑な日本語でも意図をくみ取る
- 想定外の質問にもそれなりに答える
- ドメイン外の知識もそれなりに持っている
といった「ざっくり強い」性質は、非LLM構成ではほぼ失います。
タスクを厳密に絞らないと、
- 想定外入力が来た瞬間に破綻する
- ルールの網から漏れたケースがボロボロ出る
という状況になりがちです。
「AI」というより、かなりガチガチに作り込んだスマートオートメーションに近い。
実装コストは地味に高い
LLMに丸投げしていた部分を、
- 意図分類ロジック
- 状態管理
- エラーケースのハンドリング
として自前で全部書き下ろす必要があります。
一度作れば安定するとはいえ、
「要件がフワフワしているフェーズ」ではLLMのほうが圧倒的に楽です。
プロトタイピングのスピードで言えば、
ぶっちゃけLLMの圧勝です。
スケールすると結局つらくなる
要件追加のたびに、
- 新しい if / else
- ルール追加
- 軽量モデルの追加・学習
が必要になります。
これは結局、「昔のエキスパートシステムがルール爆発で死んだ歴史」をなぞりかねません。
特に日本語の自然言語処理を中途半端にがんばり始めると、
- 形態素解析
- 辞書メンテ
- 表現ゆらぎとの戦い
など、LLMがうまく丸め込んでくれていた部分に、
再び人間の工数が積み上がっていきます。
ユーザーの「AI期待値」とのギャップ
2026年の一般ユーザーにとって「AI」といえば、
ほぼChatGPTクラスの体験を指します。
非LLM+1GBで作れるのは、
- かなり用途限定
- かなり挙動がキッチリしすぎている
タイプのアシスタントです。
ここで「AIチャットボットです!」とだけ言ってしまうと、
だいたいガッカリされます。
UX的には、
「特定業務に特化した“半自動オペレーター”です」
くらいの説明がちょうどいい、と個人的には思います。
なぜそれでも「1GB・非LLM」は意味があるのか
ここまで読むと、
じゃあ結局、実務ではLLMでよくない?
という声も聞こえてきそうです。
それでも、このアプローチにははっきりとした価値が3つあります。
コスト構造をフラットにし直せる
LLM前提だと、プロダクトのコスト構造はどうしても、
- トークン課金
- GPU or 高スペックマシン
- ネットワーク(APIレイテンシ・帯域)
に引きずられます。
1GB・非LLMの場合、
- 月数百円のVPS or ラズパイ級ハード
- 電気代以外ほぼ固定
- オフライン運用も視野に入る
という、めちゃくちゃシンプルな構造になります。
「この機能、ユーザー課金いくらにしよう?」を考えるときに、
コストが読みやすいのはビジネス的にかなり大きいです。
デバッグと責任の所在がはっきりする
LLMに任せていると、
- 変な返答が出ても、「モデルの中でなにが起きたか」はほぼブラックボックス
- 再現性も低く、「同じ入力で同じ出力」が保証できないことも多い
非LLMなら、
- 入力 → どのルール/モデルを通過したか → 出力
をトレースできます。
なぜそう答えたか
どのルールが効きすぎているか
どこにバグがあったか
が、人間に追える形で残る。
これ、法務・コンプラ・監査が絡む領域ではかなり重要です。
「本当にLLMが必要か?」を毎回問い直させる
正直、一番の効用はここだと思っています。
- 仕様を聞いて
- なんとなくLLMを当てはめて
- なんとなくベクタDBを用意して
というルーチンに入りかけたときに、
これ、非LLM+1GBでいける設計ないか?
と一度立ち止まる癖がつく。
この記事は、その「思考のフック」として機能します。
エンジニアリングって、本来は制約から組み立てる遊びのはずなんですよね。
メモリ1GBという極端な制約をあえて置くことで、
- 何を捨てるのか
- どこまで単純化できるのか
- どこから先はLLMに任せるべきか
を真面目に考えさせてくれる。
その意味で、これは「アンチLLM」ではなく、
むしろ健全なLLM利用のための対置だと感じています。
プロダクションで使うか?正直まだ様子見です

私自身の結論を正直に書くと、
- なんでもかんでも1GB・非LLMでやるつもりは全くない
- でも、「小さくて済むもの」をちゃんと小さく作るための
思考フレームとしてはかなり有用
という立ち位置です。
プロダクションでの使いどころを挙げるなら:
- 特定業務にガチガチに閉じた社内ツール
- 組み込み・IoT デバイス上の「ちょっと賢いUI」
- 教育用・体験用の「AIの中身を見せる教材」
あたりが現実的かなと。
逆に、以下のようなものにこれを当てはめるのは、
さすがに無茶だと思っています:
- オープンドメインのQ&A
- クリエイティブ生成(文章、コード、画像)
- 複数ドメインをまたぐ高度な自然言語理解
そういうところでは、素直にGemma 3やLlama、DeepSeekを呼び出した方がいい。
そしてそのときも、
「どこまでLLMに任せて、どこから先は非LLMで固めるか?」
という設計思想を持っておくと、
プロダクトはずっと健全になるはずです。
まとめ:LLM疲れのエンジニアにこそ読んでほしい理由
この「非LLM・1GBメモリAI自作」の事例は、
- 新しいSOTAモデルを叩き出したわけでも
- LLM時代を終わらせる革命でも
まったくありません。
でも、
- 「AI = LLM」という思考停止から一歩引かせてくれる
- 制約から設計する楽しさを、2020年代にもう一度思い出させてくれる
- 「LangChainを使うまでもない世界」をちゃんと見せてくれる
という意味で、技術記事としてかなり価値が高いと感じました。
LLMのチュートリアルに疲れてきた人ほど、
一度こういう極端に小さいAIを真面目に設計してみるのはアリです。
その上であらためてGemma 3やOllama、RAG付きのローカルLLM環境を触ると、
「どこまでLLMに頼り、どこから先を自分で設計するか」の感覚が
かなり変わってくるはずです。🚀
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あなたなら、今自分が作っている機能のうち、
どこまでを「非LLM+1GB」で置き換えられると思いますか?


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