「なんでプロダクトをちゃんと作ってるのに、気づいたら炎上と分断の温床になってるんだ…?」
SNSやコミュニティ機能を触ったことのあるエンジニアなら、一度はこういう無力感を味わったことがあるはずです。
- 誰も「ヘイトを増やそう」と思って作ってないのにヘイトが増える
- 誰も「分断させよう」と思ってないのに分断が加速する
- ポジティブよりネガティブな話題の方が圧倒的に伸びる
正直、これを「個別のミス設計」や「一部の悪意ユーザ」のせいにしている限り、次の10年も同じ失敗を繰り返すだろうな、という感覚があります。
そんな中で、「タニトのしるし」というちょっと怪しげな名前のペア記事が出てきた。
内容を技術者目線で読むと、これは「新しいツール」でも「新しいライブラリ」でもなく、
人類社会にデフォルトで組み込まれている“負のOSアーキテクチャ”に名前をつけようとした試み
だと解釈するのが一番しっくりきます。
この記事では、この「タニトのしるし」モデルを、
エンジニア・設計者としてどう受け止めるべきか、かなり主観強めで整理してみます。
一言でいうと「インターネット界の熱力学」モデル

記事の中核にあるアイデアを、エンジニア向けにざっくり言い換えると、
「人類の認知バイアス+記憶の偏り+情報インフラ」を組み合わせると、
放っておいても“分断と不信が安定してしまうフィードバックループ”が自動起動する。
それに『タニトのしるし』というラベルを貼ろう。
という提案です。
で、これを歴史的なアナロジーで言うなら、
「サイバー空間におけるエントロピー増大則」みたいなもの
にかなり近い。
物理世界では、何もしなければ部屋は散らかり、熱は拡散し、エントロピーは増大します。
同じように、情報社会では、何もしなければ…
- ネガティブな記憶だけが長く残り
- ポジティブな出来事はすぐ忘れ去られ
- 不信と分断が“安定状態”になる
という方向に自然に収束していく。
この「自然な収束先」に、記号として 𓍶 + 𓏐/𓏙/𓉴 を当てて「タニトのしるし」と呼んでいるわけですね。
正直、「記号はどうでもいいから構造だけ説明してくれ」とツッコミたくもなるんですが、
記号論・認知科学・情報戦をひとつの抽象モデルに束ねる「メタタグ」として記号を用いている、と理解するとそこまで胡散臭くはないです。
これ、何がそんなに新しいのか?(カーネマン本との違い)
「またバイアス理論? カーネマンでよくない?」と思った人もいるはずなので、
既存の枠組みと比べて「タニトのしるし」がどこに位置するのかを整理します。
カタログじゃなく「OSの挙動」を説明しようとしている
従来の認知バイアス本はだいたいこんな構造です👇
- 確証バイアス
- 損失回避バイアス
- アンカリング
- …(n個列挙)
つまり「バイアスの辞書」です。
一方、「タニトのしるし」はこういう発想になっている:
これらのバイアス+記憶の時間的非対称性+プロパガンダ構造が組み合わさると、
“分断と不幸が安定する負のOS挙動”が立ち上がる
要するに、
- 従来:関数群のリファレンス
- 今回:それらを組み合わせた「状態機械(OS)」の仕様
という違いです。
GoogleのAPIリファレンスと、Linuxカーネルアーキテクチャ図ぐらいの粒度差がある、というと伝わりやすいかもしれません。
「負のフィードバック」の再定義がえぐい
システム理論で「負のフィードバック」といえば、
- ずれを打ち消して安定化させる
- 制御工学の基本
という意味でポジティブなニュアンスがあります。
ところがこの記事では、これをひっくり返して、
「不幸・分断・不信が“安定化”される負のフィードバックループ」
として再定義している。
つまり「安定すること」自体が悪い、という構図です。
これは地味に強い。
なぜなら、私たちがプロダクトで「安定したエンゲージメント」を目指すとき、
その“安定”がすでにタニト的負ループの上に乗っている可能性があるからです。
ぶっちゃけ、「日次アクティブは増えたけど、世界は悪くなったよね?」みたいなサービス、心当たりありますよね…?🤔
「記憶時間の非対称性」をループに組み込んだ
ここが個人的には一番面白い点です。
- ネガティブな出来事は長く記憶される
- ポジティブな出来事はすぐ忘れられる
- 集団として語り継がれるのは「戦争・裏切り・災害」が中心
これ自体は心理学や歴史学では散々言われてきた話ですが、
これをフィードバックループの中核パラメータとして扱っている。
技術者風に言うと、モデル内に
decay_half_life_positive << decay_half_life_negative
みたいな前提がハードコードされているイメージです。
その結果として、
社会 OS は「常時ネガティブ寄りで安定する」
というわりと救いのない結論に落ちる。
正直、この前提を一度受け入れると、
「炎上しないSNS」というプロダクト要件が相当ファンタジーに見えてきます。
これは誰と競合している理論なのか?

記事を読んでいて感じたのは、「タニトのしるし」は別にカーネマンやメディア論とケンカしたいわけではなく、
それらを“上位レイヤー”で束ねる OS モデルを名付けたい
という試みだということです。
既存フレームとのざっくり比較
| 観点 | 従来の認知バイアス論 | 「タニトのしるし」 |
|---|---|---|
| 粒度 | 個人の判断・心理 | 集団・社会スケール |
| 形態 | バイアスのカタログ | 負のフィードバックOS |
| 時間軸 | 瞬間的意思決定 | 記憶の長期スケール・世代間 |
| 用途 | 「自分の思考の癖」を知る | プロダクト/インフラ設計の前提条件にする |
Googleの検索アルゴリズム仕様と、
「そもそも検索という行為が社会に何をもたらすか」というメディア論の関係に少し近いです。
なので、「どの理論と比べて優れているか?」というより、
- 認知バイアス本:関数ライブラリ
- タニトのしるし:ライブラリ群が載っている OS のデフォルト挙動
と見た方が実務的には役に立つと思います。
これをエンジニア視点で読むと、何が痛いのか
ここからが本題です。
ぶっちゃけ、実装や運用をしている側から見ると、このモデルはかなり耳が痛い。
「何もしなければ負のプロパガンダ構造が自動起動する」が前提になる
いちばん重要なメッセージはこれです。
「悪意のある誰か」がプロパガンダ構造を設計しているのではなく、
“人類OSのデフォルト挙動”として自動的に立ち上がる。
つまり、あなたがプロダクトオーナーとしてどれだけ善人でも、
インセンティブ設計をどれだけ真面目にやっても、
- ネガティブが伸びやすい
- 対立がバズりやすい
- 不安を煽る投稿が拡散しやすい
という方向に自然に滑っていく。
これはFacebookニュースフィードやYouTubeレコメンドの「炎上最適化」の歴史を思い出せば、身に覚えがありすぎるはずです。
「アルゴリズムが悪かった」のではなく、
- 人類のバイアス
- ネガティブ記憶の長寿命
- エンゲージメント最大化ロジック
を掛け合わせた結果、タニト構造に収束してしまったと見る方が現実に近い。
SNS設計の「デフォルトがバグ」になる
このモデルに立つと、SNSやコミュニティ機能はこう見えます。
デフォルト設計のままだと、
“タニト構造への最短経路を最適化する”装置 になりがち
なので、本来やるべき設計は「機能を足す」ではなく、
- ネガティブコンテンツの「自然増幅」を抑制する
- ポジティブな成功・協調事例の“記憶寿命”を意図的に伸ばす
- 「短期の炎上」より「長期の信頼」を可視化・報酬化する
といった、OSレベルの逆張り設計です。
具体例としては:
- タイムラインに「過去の良質な対話」や「成功裏に終わった協調プロジェクト」を定期的に再掲する
- 「怒り」ベースの反応より、「理解」や「感謝」ベースの反応に重みを置いたランキング
- 分断を煽る投稿より、「橋渡し」行動(他者理解・対話)を評価するスコアリング
などが考えられますが、正直いずれも「グロースチーム的には採用したくない施策」になりがちです😅
ここが一番のジレンマですね。
LLM 開発者に突きつけられる “不都合な真実”
もう一つ、この記事が明示的に触れているのが LLM への影響です。
- LLM は人類のテキスト(=すでにタニト構造に汚染されたアウトプット)を学習する
- そのまま学ばせると、タニト的負ループをそのまま継承・強化する
という懸念です。
開発者としては、次の2層を意識せざるを得ない:
- データセット設計
- ネガティブ・対立コンテンツの比率をどう補正するか
-
歴史的に“忘れられがち”なポジティブ事例をどう掘り起こすか
-
出力制御
- 不安を不必要に煽る応答をどう抑制するか
- 「分断を前提にした物語」ではなく、「橋渡しの物語」をどれだけ出せるか
個人的には、「タニトのしるし」をデータセット内バイアス構造のメタタグとして扱う、という発想はかなり使えると思っています。
- このデータは「タニト構造を描写している」のか
- それとも「タニト構造に抗う実践」を語っているのか
までラベリングできると、モデルへの学習もだいぶマシになるはずです。
ただ、懸念点もあります…(Why I'm skeptical)

ここまでベタ褒めっぽく書いてきましたが、正直なところ懸念もかなりあります。
懸念1:抽象度が高すぎて「すぐには使えない」
記号(𓍶 など)を持ち出していることもあって、
モデル自体はかなり抽象的・象徴的です。
- どのメトリクスを観測したら「タニト構造が強い」と言えるのか
- 実験でどう検証するのか
- プロダクトKPIにどう落とし込むのか
といったレベルの話は、まだほぼノータッチです。
ぶっちゃけ、現時点では
「問題設定フレームとしては優れているが、設計ドキュメントにはまだ落ちない」
という評価が妥当かなと思います。
懸念2:決定論に走ると、ただの悲観主義になる
「人類は放っておくと必ずタニト構造に落ちる」という前提を強くしすぎると、
- 文化・技術・制度による差異を無視しがち
- 「どうせ悪化するんだから何しても無駄」という諦めに繋がりがち
というリスクがあります。
正直、これはエンジニアには相性が悪い。
私たちがやりたいのは「どうせダメだよね」と言うことではなく、
「どこまでなら設計でひっくり返せるか」を探ることなので。
なので、このモデルは
「最悪のデフォルト状態の説明」
と割り切って使い、
「どこからどこまでを設計で上書きできるか」を意識的に切り分ける必要があります。
懸念3:ラベル乱用で「何でもタニト」化しそう
新しいカッコいいラベルが出ると、ありがちなのが
「それタニトっぽいよね」
「この現象もタニトで説明できる」
という便利ワード化→分析精度の劣化ルートです。
技術的・研究的にちゃんと扱うなら、
- どの指標(例:ネガティブ/ポジティブの記憶寿命比、分断度、不信スコア)で
- どの程度以上になったら「タニト構造が優勢」と見なすのか
といった、少なくとも“観測可能な条件”を決めておくべきでしょう。
じゃあプロダクションで「タニトのしるし」を使うか?
「使うか?」と聞かれると、これはAPIでもライブラリでもないので、
もう少し正確に言うとこうなります。
プロダクション設計の“前提 OS モデル”として採用するか?
正直な結論を書きます。
-
SNS / コミュニティ機能
→ 前提モデルとして部分採用すべきだと思います。
「何もしなければタニト構造に流れる」を前提に、逆張り設計を考えるのは必須レベル。 -
LLM / 生成AIのデータ設計
→ ここもかなり重要。
データセットレビュー時に「タニト構造の継承リスク」という観点を入れるだけでも価値がある。 -
組織内ナレッジ共有・社内SNS
→ ここにも効きます。
「失敗や炎上だけが長く語り継がれ、成功や協調がすぐ忘れられる」構造は、割とどの会社でもあるあるです。
意識的な「ポジティブな記憶のアーカイブ・再掲」は設計に入れていい。
一方で、
- 「タニト指数」みたいなKPIを今すぐ導入する
- 記号(𓍶)をそのまま社内ドキュメントに書き始める
レベルまで踏み込むのは、正直まだ早いかな、という印象です。
まずは「問題の見取り図」としてチーム内で共有するくらいがちょうどよさそうです。
まとめ:タニトを「冷房の必要性を教えてくれる熱力学」として使う
最後に、エンジニア向けに一番しっくり来る比喩で締めると、
熱力学:
「エントロピーは自然に増大する。だから冷房や冷蔵庫が必要になる。」タニトのしるし:
「認知バイアスと記憶の非対称性により、分断と不信は自然に増大する。
だから“情報空間の冷房装置”としてのアルゴリズム・UXが必要になる。」
という理解が一番実務に役立つと思います。
- 「なんで放っておくと炎上ばかり起きるのか」
- 「なぜポジティブな事例はすぐ消え、ネガティブな記憶だけ残るのか」
その背景にある“社会 OS のデフォルト挙動”に、
「タニトのしるし」という名前が付いた、くらいに捉えると、
設計者として一段深く考えるきっかけになるはずです。
プロダクションにそのまま「導入」するフェーズではありませんが、
設計レビューのときに一度「これ、タニト構造に最適化してないか?」と問い直すフレームとして、
手元に置いておく価値は十分にある、と個人的には感じています。


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