「SnowflakeでRAGやりたいのに、
・データはSnowflake
・ベクトルは別のDB
・LLMはまた別のSaaS
・権限はどこで管理してるんだっけ?
……ってカオスになってませんか?」
正直、ここ1年ぐらいで「Snowflake + ○○ + LangChain + ベクトルDB + LLM API」みたいな構成を何回も見てきましたが、どれも似たような苦しみを抱えていました。
そんな中でSnowflakeが出してきたのが、今回の「Cortex AI を軸にしたAI/AIアプリ開発機能」です。
これ、ただの「ウチもLLMやります」ではなく、アーキテクチャ的にかなり攻めた一手です。
一言でいうと、「Snowflake版 Firebase になりたい宣言」

今回のアップデートを雑にまとめると:
「Snowflakeはもう“データウェアハウス”じゃなくて、“AIアプリのバックエンド”になります」
という話です。
Firebase が「ただのリアルタイムDB」から
Firestore + Cloud Functions + Auth で “モバイルアプリのフルスタック基盤” になったのと、かなり似た匂いがします。
Snowflakeも同じことをやろうとしていて:
-
Cortex AI
→ Snowflakeの中に“AIランタイム”を埋め込み、LLM推論をSQL/Snowparkから直接叩けるようにする -
ネイティブなベクトルサポート
→ ベクトル型カラムと類似検索(kNN/ANN)をSnowflakeテーブル内で完結 -
AIアプリ開発向けのビルトイン関数 / テンプレ
→ 要約・分類・翻訳などをSELECT AI_SUMMARIZE(...)的に書いて終わり、みたいな世界 -
ガバナンス一体化
→ 既存のRBAC・データマスキング・監査ログの仕組みが、そのままAI機能にも効く
ぶっちゃけ、「データクラウド」から「AIアプリクラウド」に踏み込んだ、というポジショニングですよね。
何がそんなにヤバいのか:Snowflakeが「AIバックエンド」の椅子を取りにきた
技術的に見ると、一番インパクトがあるのはここです:
AI推論やRAGの各パーツが“データベースの機能”になった
これまでは、
- Snowflakeにデータ
- 別の場所にベクトルDB
- さらに別の場所にLLM API
- それをつなぐアプリ or LangChain
という “配線工事” が前提でした。
今回のSnowflakeは、この配線の大半をデータベースの中に飲み込もうとしているわけです。
RAGの典型フローで見ると…
これまでのRAG構成:
- SnowflakeからドキュメントをETLで引っ張る
- 別サービスでEmbeddingを生成し、ベクトルDBに保存
- アプリからクエリ → ベクトルDBで類似検索
- 結果をLLM APIに投げて回答生成
- 監査や権限制御は、アプリ側で頑張る
Snowflake版RAG(今回の構想):
- ドキュメントはSnowflakeテーブルにそのまま格納
- Cortex/ビルトイン関数でインプレースにEmbedding生成 → ベクトルカラムに保存
SELECT ... ORDER BY VECTOR_DISTANCE(...) LIMIT 10的なクエリで類似検索- その結果をCortexのLLMに直接渡して回答生成(SQL or Snowparkから)
- アクセス権・マスク・監査は、全部SnowflakeのRBAC/ポリシーで一元管理
つまり、
「RAGのために外に出ていたものを、ガバナンスも含めて全部中に戻した」
という構造です。
これは、あらゆる「Snowflakeの横に無理やりAIをくっつけていたアーキテクチャ」に対する、本気の代替案になり得ます。
競合と比べたときの「Snowflakeらしさ」

Databricks vs Snowflake:AI戦争の第二ラウンド
AI文脈で一番意識している相手は、やはりDatabricksでしょう。
- Databricks
- レイクハウス(Delta Lake)+ MLflow + MosaicML など
- モデル学習〜デプロイまでをフルカバー
-
Python/ノートブック中心、MLエンジニアが主役
-
Snowflake(今回のアップデート後)
- 強みは「ガチガチにガバナンスされたDWH」としての実績
- Snowpark + Cortex + ベクトル検索で、アプリ開発者とアナリストを主役にしてきた
- SQL中心の世界にAIを“溶かし込む”方向
正直、ターゲットとする「開発者像」が違うんですよね。
- Databricks:
- 「自前でモデルもガンガン作るMLチーム」がいる組織向け
- Snowflake:
- 「SQLと既存データを武器に、“AIっぽい機能”を最速でプロダクションに載せたいチーム」向け
プロダクト哲学的には、
Databricks は「AI工場」
Snowflake は「ガバナンス付きAI SaaS基盤」
という感じの差異が、今回さらにハッキリしたと思っています。
ベクトルDBやLangChain勢からすると、これはかなり痛い
もう一つ、インパクトが大きそうなのが以下のプレイヤーたちです:
- ベクトルDB(Pinecone, Weaviate, Chroma, etc.)
- AIオーケストレーション(LangChain, LlamaIndex, etc.)
Snowflakeのデータを中心にAIアプリを作りたいチームにとっては、
- 「ベクトル、Snowflakeでよくない?」
- 「権限も監査もSnowflake側に揃ってるし…」
という判断になりやすくなります。
特に、コアデータがSnowflakeにあって、生成AIはあくまで「味付け」レベルのユースケース(ドキュメント要約、Q&A、カスタマーサポート支援など)では、
外部のベクトルDB/オーケストレーションフレームワークをわざわざ導入する理由がかなり減ってしまう。
ぶっちゃけ「SnowflakeだけでそれっぽいRAGアプリ作れるなら、それでいいじゃん」という空気になりやすいです。
「これは刺さる」と思うポイント:エンプラのガバナンス筋にド直球
正直、一番“効く”のは技術的なカッコよさよりも、ガバナンス筋です。
- 既存のRBACがそのままAI機能にも適用される
- マスキングポリシーを破らずにLLMにデータを渡せる
- 監査ログも一元化
- 「どのロールが、どのプロンプトで、どのデータにアクセスするAI機能を呼んだか」を追える
この辺が揃っていると、情報システム/セキュリティ部門の「NO」を一気に減らせるんですよね。
これまでは、
- 外部のLLMに機密データを投げていいのか?
- データが外に出る経路を本当に把握できているのか?
- アプリ側の認可ロジックに全部任せて大丈夫なのか?
というところで、PoC止まりになる案件が山ほどありました。
Snowflakeの提案はこうです:
「データが出ていく先は、すべてSnowflake。
外部との会話はCortexの裏側で管理。
今あなたが信頼しているRBACと監査ログが、そのままAIにも効きます。」
エンプラでこのストーリーを嫌う人は、ほぼいません。
正直、営業資料としては満点に近いです。
ただし、懸念もデカい:コスト・ロックイン・抽象化地獄

ここまでベタ褒め気味できましたが、もちろん懸念もそれなりにあります。
コスト爆発の未来
Snowflakeの課金モデルを知っているエンジニアなら、まずここを疑うはずです 🤔
- ベクトルカラム → ストレージ+インデックスのコスト
- 類似検索 → DWHコンピュートの消費
- LLM推論 → 別途従量課金(+Snowflakeマージンの可能性)
これを「全部Snowflake上で」やると、
“Snowflakeの請求書がAI分だけ倍プッシュされる” という未来は普通にありえます。
特に、
- 文書数が多い(数千万〜億件)
- 1クエリあたりのコンテキスト量が大きい
- ユーザトラフィックが高いプロダクト(B2C寄り)
みたいなケースでは、
ベクトルDB+専用推論基盤を自前で組むほうが、トータルでははるかに安くなる可能性があります。
Snowflakeの便利さに甘えてPoCをそのまま本番に上げると、半年後の請求で死ぬパターンは普通に起きると思っています。
ベッタベタのロックイン
もう一つは、ロックインのレベルが一段上がる点です。
- データ → Snowflake
- ベクトル → Snowflakeのベクトル型カラム
- AIロジック → Snowflake固有のAI関数・Snowpark API
- ガバナンス → Snowflakeのポリシー定義
ここまで寄せると、
「他のクラウドや基盤に乗り換える」という選択肢は現実的にほぼ消えます。
RAGロジックを
- LangChainのチェーン/エージェントとして組んでいる場合は、まだ移植性がありますが
- SnowflakeのSQL関数・Snowparkのヘルパーにガッツリ埋め込んだ場合、移行時には全面書き換えコース
になります。
もちろん、「それでもいい、そのくらいSnowflakeに乗る」という選択も全然アリなのですが、
最初のアーキテクチャ設計で“どこまでSnowflakeに寄せるか”は相当慎重に決めたほうがいいと思っています。
抽象化の罠:高度なMLには向かない可能性
Cortexのような「マネージド基盤のLLMサービス」は、
- モデル選定
- GPUキャパシティ管理
- バージョン管理
などを全部持っていってくれる代わりに、
- モデル構造へのアクセスはほぼ無し
- 細かいチューニング(LoRA/フルファインチューニングなど)はSnowflake側の提供次第
- 推論の細かなパフォーマンスチューニングも難しい
という制約がつきまといます。
つまり、
- 「社内文書検索やFAQ自動応答」くらいには最高
- 「自前で作り込んだカスタムモデルをガンガン学習・最適化したい」にはイマイチ
というバランスになりがちです。
本気でML研究〜高度なMLOpsまでやりたいなら、
- Databricks
- Vertex AI
- SageMaker
- 自前Kubernetes + Ray
あたりのほうが依然として向いています。
SnowflakeのAIは「アプリケーションの味付けとしてのAI」に全振りしている印象で、
そこを見誤ると「なんか思ったより融通きかないな…」となる危険はあると思います。
リソース競合&SRE泣かせ
データウェアハウス上で
- 重いBIクエリ
- ETLバッチ
- さらにLLM推論とベクトル検索
が同時に走る世界を想像してください。
ワークロード管理をちゃんと設計しないと、
- 月次バッチが走るときにAIアプリのレイテンシが跳ね上がる
- AIアプリが想定外にヒットして、分析系のワークロードが詰まる
といったクラシックな「なんでもかんでも1つのクラスターに詰め込んだ世界の悪夢」が再来します。
Snowflakeは仮想ウェアハウスである程度分離できますが、
- どの機能をどのウェアハウスで回すか
- スケールポリシーをどう分けるか
- コスト配賦をどうするか
あたりをかなりちゃんと設計しないと、
「楽をしようとして全部Snowflakeに寄せた結果、運用はむしろ複雑化した」というオチも普通にありえます。
じゃあ、プロダクションで使うか?正直まだ「選択的採用」くらいが妥当
エンジニア視点での結論を率直に書くと:
“Snowflake中心の企業”で、かつ「AIはまずRAGと軽めの生成から」という組織には、かなり刺さる。
ただし、いきなりAI基盤の「全部Snowflake」はやりすぎ。
というスタンスです。
今すぐ試すべきシナリオ
- すでにSnowflakeが社内データのハブになっている
- AIユースケースは、まずは:
- 社内FAQ / ドキュメント検索
- レポートの自動要約
- カスタマーサポート向けの回答案生成
- BIの「自然言語で質問」系
- ML専任チームは少ない、でもアプリ開発やデータアナリストはそこそこいる
この条件なら、
- ベクトル検索+CortexでPoC
- ガバナンス一括管理のメリットを体感
- コストとレイテンシを実測で評価
という流れはかなりアリです。
逆に、まだ様子見したいシナリオ
- すでにDatabricks/Vertex/SageMakerなどで本気のML基盤を運用中
- LoRA/Fine-tuning/蒸留などをガンガン回している
- モデル自体がプロダクトのコアバリュー
こういう組織は、正直SnowflakeのAIは
- 「データアナリスト向けの補助ツール」
- 「ちょっとした自然言語インターフェース」
くらいの立ち位置から様子を見るぐらいで良いと思います。
メインのML基盤をSnowflakeに寄せるのは、現時点ではやりすぎです。
まとめ:Snowflakeは「AI時代のOracle」になりたい

今回のアップデートを見ていて個人的に感じたのは、
Snowflakeは「AI時代のエンタープライズDBの標準」を取りにきている
ということです。
-
データウェアハウス → データクラウド → AIアプリ基盤
という進化のラインは、昔のOracleやSQL Serverが -
トランザクションDB → ストアド+レポーティング → アプリサーバ的な存在
になっていった歴史とけっこう重なります。
違うのは、今の「アプリの味付け」が
REST APIやストアドではなく「LLM + ベクトル検索」になっただけ。
正直、エンプラの現場目線ではこの方向性はかなり合理的です。
「データがある場所」にAIを持ってくるのは、多くの場合、
「AIがある場所」にデータを持っていくよりも安全で、組織的にも通しやすいからです。
ただし、その分だけ
- コスト
- ロックイン
- 抽象化による制約
という“お約束の罠”もセットでついてきます。
なので実務的には、
- 「RAGのPoCはまずSnowflakeで」
- 「スケールしたら一部を専用基盤に逃がす前提で設計」
- 「AIロジックはなるべく移植しやすい形(外部ライブラリ or 明確な境界)で持つ」
くらいの“逃げ道つきアーキテクチャ”で付き合うのが、今の時点では一番現実的かな、と思っています。
Snowflakeをすでに使っているなら、
「次のProof of Conceptは、とりあえず全部Snowflakeの中で組んでみる」
というのは、かなりコスパのいい実験になるはずです。
その結果、請求書とSLAと相談しながら「どこまで寄せるか」を決める――
そんな付き合い方が、このCortex時代のSnowflakeとの適切な距離感かなと感じています。


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